今日はなんて良い天気なんだろう。私は草原に一人、ごろんと横になる。ぽかぽか陽気が気持ち良くてついうとうととしてしまうけれど、目を開ければそこには雲一つない真っ青な空が広がっていて、寝転がっている私を見下ろしていた。この空に包まれていればいる程ついこの間の、断末魔が飛び交う血生臭い戦いが嘘のように感じてしまう、今の自分の惚け具合が恐ろしい。それでも、ここ最近気を張りつめていた所為か疲れが溜まっていて、私はまるで鎖で縛られてしまったみたいに今の状態から動けないでいた。ああ、もうこのまま寝てしまおうかなあ。

、何をしているんだい」

 すぐ傍で声がして閉じかけていた瞼を開くと、この空の色とは少し違う青の瞳が目に飛び込んできて、私は物凄く驚いてしまった。ま、マルス王子?! 驚きついでに慌てて飛び起きて、目の前の額と私の額がぶつかってごつんと大きな音がした。「痛っ!」私はあまり痛みを感じなかったけれど、勢いよくぶつけられたマルス王子はそのまま後ろによろめく。ああああ、どうしようどうしよう! 王子に間抜けた姿を晒して、挙句の果てに王子をこんな目に遭わせるだなんて、私はなんて事をしてしまったんだろう! もし王子に怪我なんて負わせてしまっていたら、きっと周りの皆から物凄く責められるだろうし、それだけじゃなくてマルス王子に「。君、もう国に帰っていいよ」なんてあの素敵な笑顔で言われてしまうんじゃないか。そんな、私はこの命を王子に助けられてから、マルス王子をお守りするのだと、王子にどこまでも例え地獄の果てまでもついていくんだと心に誓ったのに。それなのに、王子に直々に解雇を宣告されるだなんて。私は一体どうしたらいいんだろう!

 私はとにかく頭が混乱していて己の妄想が止まらず、「ごめんなさいごめんなさい」「申し訳ありませんでした」「だから戦力外通告だけは勘弁して下さい」とただひたすら謝り続けていたのだけれど、そんな私をマルス王子はじっと見て、それから大笑いした。それはもう、普段の気品の良さは何処へいったのやら、とばかりに大爆笑されていた。え、マルス王子ってこんな風に笑う御方だったっけ。私はついていけずに、ぼんやりとその様子を眺めていた。「ああもう、ほんっとに馬鹿だなあは!」ひぃひぃと笑いながら言う王子のその言葉にショックを受けたけれど、それでようやく私はある事に気付く。「チェイニー!」否、そうであって欲しい。マルス王子はこんなのじゃないんだから。

「気づくのが遅いんだよ、ばーか」
「またあんたか! 悪戯も大概にしてよ!」
「毎度毎度騙されるお前が悪いんだろ」

 チェイニーはマルス王子の姿のまま、にやりといやらしい笑みを浮かべる。王子のその表情も良いかもしれない・・・じゃなくて、私はまたチェイニーに騙されたんだ! 「ていうかお前、相当な石頭だなあ。めちゃくちゃ痛かったぞ」と、額をさすりながら言うチェイニーに、私はぐっと拳に力が入る。マルス王子の姿じゃなかったら、速攻でパンチをお見舞いしてたのに。

「それにしても、面白かったなさっきのお前! マルス王子に嫌われたら生きていけませんって顔してさ」
「う、うるさい!」

 自分で思い返しても恥ずかしいんだから! ああでも、本物のマルス王子じゃなくて良かった。もしそうだったら、今頃私はどうなっている事やら。チェイニーはマルス王子の唇を私の耳元に寄せて、囁く。「そんなに僕が好きなの、」思わずびくん、と全身が揺れる。チェイニーの言う通り、本当にマルス王子に嫌われでもしたらきっと私は生きていけないよ。だって、偽物のマルス王子だって分かってるのにこんな事を言われて、どきどき心臓がうるさいんだもの。顔を真っ赤にして、何も言えず金魚の様に口をぱくぱくさせているとチェイニーはまた笑った。人の乙女心を笑うだなんて酷過ぎる!

「あーもう面白いなあ。こりゃあマルスに話すっきゃないだろ」
「あ! こら、待てチェイニー!」





   と一緒(なのに中身は似ても似つかないね!)



 それから私は、王子の姿をしたまま走って行ったチェイニーを追いかけた。追いかけて追いかけて、ようやく青いマント姿を見つけてその背中に跳びついた。「チェイニー、もう許さないんだから!」すると振り返ったその人は「え、?」と不思議そうに首を傾げる。チェイニーがとぼけてやり過ごそうとしているものだと思って、私がそう言えばその人は、あはは、と大層可笑しそうにけれど品良く綺麗に笑った。しまった、まさか。

「本当に、とチェイニーは仲が良いね」

 笑った後、本物のマルス王子はそう言った。もう、チェイニーのばか!