「痛っ、」

 ちくり、と針が指に刺さる。もう、これで何回目だろう。こんなに刺すなんて、私やっぱり裁縫に向いていないのかな。ふう。溜息を吐いて疲れた目をこする。天幕の隙間から外を見ると、空が青色にオレンジが迫っていた。結構長い時間やってたものだなあ。
 くーっと伸びをして、繕っていたズボンを広げた。このズボンは至る所が破けていたり切られたりしていて、戦場の激しさを物語る痕跡がたくさん残っていた。戦ってちゃんと生きて帰ってこれて、明日を無事に迎えることが出来たんだ、なんてしみじみ思ってしまうくらい。だけど、その大きな穴もほとんどが縫われて塞がってしまった。痕を消すことは出来ないのだけれど。

「おーい、

 外から名前を呼ばれたので、はーいと返事をして天幕を捲るとそこにはエディとレオナルドがいた。気づけば、いつの間にか外も賑やかになっていたから、多分夕食に呼びに来てくれたんだろう。

「随分と中に籠ってたみたいだけど、何をしてたの」
「ちょっとね。裁縫を」

 そう言うと、レオナルドは「へえ。が裁縫だなんて珍しいね」なんて返してきた。失礼な。確かにしょっちゅう針をぷすりと刺しちゃうし、挙句の果てには糸切りバサミで指を切ってしまったりしてお世辞にも上手だなんて言えないけど、私だってやるときはやるんだから!

「あ。これ前に頼んでた俺のズボンじゃん」

 エディは机の上に置かれた縫い途中のズボンを見つけると、手に取ってそれを広げて眺めていた。・・・こうやって見られると、なんか恥ずかしい。

「へー、すごいじゃん! ちゃんと糸で縫われてる」
「怒るよエディ」
「ははっ、うそうそ。ほんとに助かったよ、ありがとう」
「ふふーどういたしまして! ・・・そうだ、レオナルドも何か縫ってほしいものがあったら私がやろうか?」
「え? えっと、うーん・・・。僕はいいよ」

 そんな、遠慮しなくてもいいのに。それに直せば新しいものを買わなくて済むから、経費削減にもなるし。
 私がやる。いや、遠慮するよ。大丈夫だから貸して。いやほんとにいいから。駄目だよ、レオナルドは弓兵なんだから。そう言うだって魔道士じゃないか。なんて二人で言い合っていると、突然「あ、」ズボンを裏表ひっくり返していたエディが言った。

「これ、血が付いてる」
「え。うそ」
「ちょっと! 手を見せて!」

 レオナルドが私の両手を掴んだ。あ、レオナルドの手温かいな。なんてちょっと思いつつも自分の手を見ると、針を刺した指から見事血が出ていて紅い玉を作っていた。ハサミで切ったところなんかは、だらだらと流れ出している。これはちょっと怖いかもしれない。

「ごめんねエディ。ズボン汚しちゃって」
「いや、そうじゃないだろ! 結構血出てるから!」
「そうだよ、早くローラに治してもらわなきゃ」
「二人とも大袈裟だなあ。平気だよ、舐めてりゃ治るって」

 見た目ほど痛くはないし、軽い傷だから傷薬で十分だって。じゃないとライブの杖がもったいない。そう言うと、エディは私の手を握って「ほんとに?」と首を傾げた。・・・あ。正直今のはちょっとどきっとした。エディは時々子犬みたいな表情をするから可愛いなあ。なんて、この前本人についそう言ったら、俺ってそういう風に見えるんだ、とかなんとか言ってしょんぼりしてたけど。
 「ほんとにほんと!」そう返すと、手を握るエディの力がさらにきゅっと込められて―――――。

 ぺろり。

「・・・え?」

 何が起こったのか、さっぱり理解が出来なかった。
 レオナルドの顔を見ると、普段は冷静な彼が驚いて目を見開いていた。へえ、こんな顔もするんだ。なんてそうぼんやりと考えていると、突然レオナルドは右手を振り上げてエディの頭を引っ叩いた。

「女の子にそういうことしちゃ駄目だろ!」
「いってー、・・・じゃあ男なら良いのかよ」
「それじゃあ気持ち悪いよ! 僕が言いたいのは、よく考えて行動しろってこと」
「だってが舐めれば治るって」
「それは比喩! そんなことで治るんだったら傷薬なんていらないだろ」

 一方的に責められてエディはむすっとしてたけど、レオナルドのその言葉に納得したのか「ごめん、」と謝ってくれた。まあ、私はびっくりしていて、二人の様子に呆気にとられていたんだけど。
 まさか。エディに、傷口を舐められるだなんて。

「まあとにかく。ほら、ローラのところに行くよ」
「うん、ありがと」
「あっ、二人とも待てよ!・・・あと。後で裁縫の続き、俺が手伝うから!」
「エディ。君もいると余計に怪我が増えるような気がする」
「じゃあレオナルドも。三人でやればすぐに終わるって!」

 私の右手をエディが、左手をレオナルドが引っ張る。その様子がなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまうと二人は不思議そうな顔をしていた。
 外に出て、風が吹いた。茶色の短い髪と金色の長い髪が揺れる。―――ああ、ずっとこうしていたいなあ。




そして私はあの日を探す
(見えない明日を見つけるために)