「ねえ」
 ここは応接室。不運にも、本当に不運にも風紀委員であるあたしは書類整理をしていたところ、同室のソファにずっと座っていた委員長の雲雀恭弥君(一応同年代…のはずだ)に話しかけられた。
「…なんでしょう、雲雀君」
 同年代だとしても、この人に対してあたしはタメ口をきくことができない。だってすぐかみ殺すよって言うとっても恐い人だから!
「あのさ」
「(は、早くしてくれ)」


「きみ、太ったね」
「……!!」

 な、なんですと!



「というわけで」
 ダイエットとしてマラソンをすることにしました! わーいぱちぱち。現在朝の5時です。
 …一人でさみしいな。まったくもう! それもこれも、あの恐ろしい委員長があんなことを言ったから・・・乙女に、そうあたしだって仮にも乙女だもの。いくら恐ろしい人からだってあんなこと言われたら傷つくよ!!
 なんて一人心の中でぶつぶつ文句を言っているが(声に出したら本当に雲雀君が来そうなので心の中で)まずは一日目。
 とりあえず、並盛町の周辺を一周することにした。

 ところが。

「お、じゃないか! どうしたんだ」
「…笹川」
 やっぱり出会うと思ったよ、このボクシング大好き男め。
「お前も走るのか。そうかそうか、ついにもボクシングの良さを理解したか!」
「違うっつーの、何一人で勝手に変な解釈してんのよ!」
「俺は極限に嬉しいぞ! では、共に朝日に向かって走ろうではないか!」
「あのねえ。マラソンはするけど、ボクシングはしないんだからね!」
「何を言ってるんだ、女だからって遠慮することはないぞ!」
「だから、違うっつーの!!」

 結局、その後は笹川と二人でマラソンをしていた。
 笹川はきっと(というか絶対)もっと速く走ることができただろうに、彼はあたしにスピードを合わせて走ってくれていた。結構優しいじゃないか。…でも、途中でわけのわからない事を言ったり、自分勝手に解釈してしまったりして、その分あたしは余計に疲れたと思う。
 けれど、その日からあたしと笹川は二人で走るようになっていた。たぶん、あたし一人じゃこんなに長くは続かなかっただろう。その点では、笹川に感謝だ。



 マラソンを始めてから一週間と少し経った、ある日のこと。

 ピンポンパンポン♪

 いつものように1限目の授業の準備をしていると、突然放送が流れ始めた。
 誰かの呼び出しだろうか。始めはそう他人事のように思っていたが、聞き覚えのあるあの恐ろしい人の声がした途端、嫌な予感と寒気がした。
、聞こえているね。今から5分以内に応接室に来るように。以上」
 ひっ―――

「ひぃやあああああ!!」
 あまりの恐怖に叫び声をあげると、教室にいた人たちは皆あたしの方へと振り返り、廊下を歩いていた人たちも教室に顔を覗かせていた。けれど、それどころじゃない。事態は一刻の猶予も無いのだから!
 あたしは勢いよく立ちあがると、そのまま全速力で教室を後にした。



「し、失礼します…」
「5分13秒。遅いよ。遅刻したらどうなるかわかってるよね」
「す、すみませんすみません!!」
 ややや、やばい。あたしここで死ぬの?! お父さんお母さん…今まで育ててくれてありがとう。まだなんの恩返しもしてないや。親不孝な娘でごめんね―――
「…まあいいや。今きみに聞きたいのは、そんなことじゃないし」
 なんて思っていると、まさかの委員長のお言葉が。み、見逃してくれるんですかね!…あ、でも、そもそもあたしは何で呼ばれたんだろう。もしかすると、書類を整理する場所を間違えちゃった!? ああ、どのみちあたしは助からないよ!!
 あまりにもあまりにも恐ろしいので雲雀君とは全く目を合わせることができなかったが、きっといつもよりも鋭い目をしていたんじゃないかと思う。

「きみ、最近笹川了平と一緒にいるみたいだね。誰に断って群れてるの」
 そう言うと、雲雀君は私のほっぺたを掴み、むにゅーっと引っ張った。い、痛い痛い!
「ひ、ひがいまふよ!…ひや、ひがわらいへほ、ごかいれふ!」
「何を言ってるんだかわからない。ちゃんと喋りなよ」
 あなたが引っ張ってるからちゃんと喋れないんですよ!
「はなひてくらはい〜」
「何。僕に命令するの」
「ふぇ〜…(あ、もう泣くかも)」
 なんて情けない声を出していると、雲雀君はようやく手を放してくれた。まだひりひりするよ。
「で?」
「だから! 違うんですよ、違わないけど!…雲雀君があたしに、ふ、太ったって、言うから」
 やば、ほんとに涙出てきた…
 とうとう涙を流し始めたあたしを、雲雀君はじっと見ていた。
 泣いちゃいけないと思っているのに、もうどうしていいかわからなくって、涙は溢れるばかりだ。


「…本当に馬鹿だな、は」
 気がつけば、あたしの目の前には白いシャツがあった。そして、なぜか温かい体温を感じていた。
 あまりのことで頭がおかしくなったみたいだ。だって、雲雀君が、あたしを、…抱きしめているのだから。


「君はこれくらいで丁度良いよ。むしろ前は細すぎだった」
「で、でも」
「…いい加減泣き止まないと、かみ殺すよ」
「(ヒィ!!)」
 雲雀君はさらにぎゅっと強く抱きしめた。
「僕が良いって言ってるんだ。勝手にダイエットなんかしたら許さないからね」
「ひ、雲雀く」
「あと」


「他の男と群れるなよ。は僕と居れば良いんだ」






     彼は暴君(こ、これって照れるところ?!)