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ドアを開けて真っ先に僕を迎えたのはではなく、部屋に充満したアルコールの匂いだった。
「姉さん」
僕の生活の習慣である並盛の見回りを済まし疲れた身体で帰宅すると、はいつものようにリビングに居た。けれど、いつもと違い「お帰り、恭弥」とすぐに声をかけてもらえなかった。それどころか、僕が帰ってきていることに気付いていないようだ。
背を向けてソファに座っているに僕が先に声をかけるとようやくこちらを見る。にへら、と笑いかけるその顔は思わずぎょっとしてしまうほど真っ赤だった。思わず僕は顔をしかめる。
「ああ、きょうやぁ。おかえり〜」
手にはチューハイの缶が握られていた。いつもならが僕のために帰宅時間に合わせて温かい夕飯を用意してくれていて、それを二人で食べているのに。今日は夕飯どころか、テーブルにはが飲んでいたであろうチューハイの缶が2、3個放置されていただけであった。
酒に弱くて、あまり好きじゃないって言ってたくせに。なのにどうしてこんなに酔うほど飲んでいるんだろうか。
「何してるの」
「へへへ。ちょっと飲みすぎちゃった」
ソファにだらんと横になる。暑いのだろうか、キャミソールに短パンというなんとも露出の多い恰好をしている。そんな隙だらけの姿を男の前で見せるものだろうか。とは言え、僕は弟だけど。
「僕は今疲れてるんだ。だから酔っぱらいの相手はしたくないよ」
そんなを見てはいられずに視線を反らす。・・・駄目だ。なんかもやもやする。これ以上考えると危険だ。気を紛らわせるために、台所にある水道の蛇口をひねりその辺にあったコップに水を注ぐ。
カラン、と音がした。
見ると缶がの手から床のカーペットに転がり落ちていた。当の本人は、ソファで身体を縮め丸くなっている。
気づくとコップから水が溢れ出ていた。蛇口を閉めて水を止めるが手の振動で零れてしまった。そして丁度いい具合になってそのままコップをのところへ持っていく。
背を向けて横になっているはぴくりとも動かなかった。僕が近づいても、やはり動かない。まるで死んでしまったかのようなその様子に、そんなことないはずなのに少し恐怖を感じてしまう。
恐怖に抗えなくて、の肩に手を置いた。・・・よかった、温かい。そのまま起こそうとして肩を揺するとは身じろいで、すると肩に掛っていたキャミソールの紐が横にずれた。
・・・・・・。
火照った体、しなやかな二の腕、ラインを描く太もも、露わになった鎖骨、そしてちらりと見える胸元。それらに魅力を感じずにはいられなかった。
思わず、その肌に手を伸ばす―――――。
「もう・・・どうしよう」
ぎくり。心臓が大きく跳ね、その拍子に素早く手を引っ込める。
・・・てっきり寝ていたのだと思っていた。
けれど、起きていると知った途端にぶわっとおかしな汗が一気に吹き出した。同時に激しい自己嫌悪に陥る。
僕だって健全な男子だ。女性の身体に興味を持つのも仕方のない事だと思う。だが。
なんてことだ。
だからと言って自分の、それも血の繋がった姉に少しでも手を出そうと思ってしまった己がひどく醜い存在だと感じられたのだ。
「姉さん」
「・・・・・」
「姉さん、水」
しかしは一言も返事をしなかった。それどころかすやすやと寝息が聞こえる。・・・さっきのはただの寝言か。
なんか、色々と考えていた自分が馬鹿らしくなってきた。
はあ、とため息を吐く。
このままではが風邪をひいてしまうので、毛布でも掛けてやろうかとの部屋へ取りに行こうとした。
すると―――。
「 」
の口から、聞き覚えのない名前が零れた。おそらく・・・男の名前だ。
「 、 、どうして・・・」
ただただその名前を呟く声には涙が交じっていた。
いつの頃からか僕の前では何があっても笑顔で振舞うようにしていたが、久しく見せる泣き顔だった。
そいつのために、が泣いている。
そう思うと、自分自身の奥底から怒りがふつふつと湧き上がっていった。
「 」って誰だ。お前がを泣かせたのか。誰に断ってそんなことをしたんだ、そんなこと許されると思っているのか。を泣かせるなんて。許さない、許さない。僕以外の男が、否僕以外の人間がを傷つけるだなんて。の感情を揺らすなんて耐えられない。僕の大切なを。。僕だけを見ていればいいのに。に近づいてくる奴なんて皆居なくなってしまえばいいのに。僕だけが傍にいればいいんだ。。
大切な。大切で大切で大切で大切で大切で大切で―――――愛している。
無意識のうちに伸ばされた手は彼女の柔らかい肌に触れた。頬を手のひらが包み込む。
もう、止められない。
眠るの頭を抱えるようにして、僕は深く深く口づけをした。
の閉じられた唇をゆっくり辿るように舐めると、びくっと震えた。その口元をこじ開けるようにして舌を入れる。そして僕との舌が絡み合った。ぴちゃ、ぴちゃ。飲んでいたアルコールの味が僕の口の中に広がる。
「・・・ふ、ぁ」
口内をかきまわしていく度に声が漏れて、それがさらに僕の欲望を掻き立てる。
僕はを愛している。今まで自分を誤魔化してきたけれどそれももう続かないだろう。諦めきれないのならいっそ執着すれば良い。血縁関係にある姉弟が愛し合ってはいけないだなんて、一体誰が決めたんだ。
もう他の男なんて見ないで。他の男の名前を呟かないで。お願いだから。これ以上僕を苦しませるなら、誰かを見る目を潰して誰かを呼ぶ口を縫ってしまおうか。そうして僕だけを頼って、助けを請えばいいんだ。
そうすれば、例え何があったとしても僕が必ずを守ってあげるから。
「」
割れた
仮面
の思うこと
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