蛙(カエル)。両生類、カエル目(無尾目)の総称。尾は無く、四本の脚があり特に後ろ脚が発達していて、その高いジャンプ力で小昆虫やクモ等の餌を捕まえたり敵から逃げたりする。なお、後ろ脚には水かきがあり水面ではこれを使って泳ぐ。水中と陸の両方で生活できる種類が多いが、完全に水中のみで暮らす種類は少なくほとんどは水辺か、その他にも草むらや樹上に棲むものがいる。幼生時にはオタマジャクシと呼ばれ、脚がなくひれのついた尾を持ちえら呼吸を行う。それは淡水中でないと生きられない。蛙を使った言葉に、蛙の子は蛙。井の中の蛙(かわず)、大海を知らず。蛙は口故蛇に呑まるる―――――。

 そこまで読んで、僕は本を閉じた。大きく背伸びをすると、くあぁとつい欠伸がでる。あんまり面白い本ではなかったなあ。うん。どうして僕がこんなものを読んでいたかというと、一昨日の魔法薬学の実験の出来が僕の班だけあまりにも酷かったからだ。僕が鍋の中に蛙を入れようとした途端に何故かその蛙が爆発して、口には到底出来ないほどの大惨事となった。蛙が好きなリリーは泣くしその逆にシリウスは大爆笑するしジェームズはその二人の様子を見て複雑な顔をするし、僕も同じ班だったピーターも(なにで、かは言えないけど)ぐちゃぐちゃになってしまったのだ。後で聞いてみたら、どうやら僕は鍋に入れる蛙の大きさを間違えたらしい。教科書には小さな子供の蛙という記述があったらしいけど、蛙ならなんでも良いと思っていた僕は並んでいた蛙たちの中でも特大のやつを選んで鍋にぶち込んでいた。そんな、魔法薬学にはあまりにも不向きな僕を見かねたが、実家から持ってきたこの本を僕に貸してくれたのだ。題名は“世界の蛙大集合”。曰く「それを読んだらリリーも許してくれるって」だそうだ(ちなみにリリーはあの一昨日の惨劇以来、一言も口をきいてくれない)。
 とはいえ、この図鑑を読んで何になるんだろう。大体の実家ってマグルじゃないか。マグルの本に魔法薬学に関する事柄が載ってるわけでもあるまいし。ああ、もっと蛙に興味を持って大切にしなさいってことか。だからといってこれを読んでも内容が僕の頭から穴という穴へ抜けていくだけで、実のところ僕はただ文字を目で追っていただけだった。一つだけ理解したことといえば、“マグルの世界の蛙は滅多に爆発しない”ということ。

 僕は窓の外を見た。学校の離れにある小さな塔も鬱蒼と茂っていたあの暗くて広大な森も、見渡す限り全てが真白だった。ここには僕以外誰もいない。ジェームズにシリウス、の三人は降り積もった雪に誘われる様に外へ出て行った。窓の下に見える黒い米粒の様な人影は彼らだ。時折、ぎゃあぎゃあと騒ぐ声が聞こえる。主にの、だけど。僕らは雪なんて見慣れたものだけれど、の住んでいた場所ではそうそう降らないらしく、ましてや積もる事は滅多に無いそうだ。だから朝起きて、はいつもの倍以上にテンションが高かった。

「おーい、リーマス!」

 外から誰かの呼ぶ声が聞こえて、窓を開けた。見ると、下で黒い米粒はこちらへ大きく手を振っていた。「お前も来いよー!」シリウスだ。その少し後ろではが僕に向かって雪玉を投げていたけど、それはこっちまで届くことなくそのまま下へ落ちていって、シリウスの頭に直撃した。シリウスの叫び声とジェームズとの大きな笑い声が響く。
 僕は寒い風が入ってくる窓を閉め暖炉の火を消し、厚手のコートと手袋を持って部屋を出た。





「リーマス。来るの遅いぞー」
「だって寒いの嫌だったから」

 外へ出ると、冷たい空気に寒い風、そしてジェームズが出迎えてくれた。シリウスとはというと、向こうの方で二人で雪玉を投げ合っている。と言ってもは見事に転んで雪の絨毯へダイブし、その隙をついてシリウスが一方的に投げつけていた。「面白いなあ全く!」腹を抱えて笑うジェームズを尻目に僕は手袋をはめた手で雪玉を握り、少し近づいてシリウスに狙いを定め、思い切り投げた。「うわっ!」雪玉は見事に命中して、シリウスはバランスを崩したのかその場に倒れこむ。ジェームズはさらに笑った。

「シリウス、をいじめないでよ」
「あ、リーマス! やっと来たんだね」

 倒れていたの手を掴んで引っ張る。はコートに付いた雪を払うと、足元の雪の塊を掴んで倒れたままのシリウスの頭目掛けて投げた。べしゃり。「、お前なあ!」シリウスはようやく顔を上げた。

「いじめてなんかねーだろ。大体から仕掛けてきたんだぞ」
「だからごめんねって言ってるじゃん! わざとじゃないのに」
「冷たくてめちゃくちゃびっくりしたんだからな! このっ」

 シリウスは再び雪玉を投げる。不意をつかれたは避けられず、雪玉は彼女の頭に当たった。シリウスの手当たり次第の攻撃に僕とは迎え撃つ。そこにジェームズがやって来て、彼はシリウスに味方するものだとてっきり思っていたがそんな事はなく、ジェームズも僕らと一緒になってシリウスに雪玉を投げつけていた。

「ちょっと、ジェームズ! なんでお前まで」
「えーだって君、リーマスが嫉妬してる事に全然気付かないんだもん」
「そうだよシリウス。僕の可愛いに手を出さないでよ」
「は? 何言ってるんだお前、誰がなんか・・・ぶっ」

 雪玉がシリウスの顔面に当たった。「あの激しい攻防戦の一体どこに嫉妬する余地があったのか・・・」そう呟いて、シリウスはへろへろと力なくその場に座り込む。「え、何。リーマス嫉妬してくれてたの」僕は首を傾げるの手を握った。「まあね」だって二人で仲良さそうに遊んでたから。握ったの手は冷たくって、霜焼けで真っ赤だった。

「あれ、。手袋はどうしたの」
「あー。さっきまでしてたんだけど、失くしちゃったみたい」

 驚いた。まさか素手で遊んでいたとは。僕は自分の右の手袋をとっての右手にはめてあげる。するとは「ありがとう」と少し照れくさそうにはにかんで、凄く可愛かった。


「おい、疲れたからもう戻ろうぜ」

 三人が外へ出てからもう随分と時間は経っていた。歩き出すシリウスとジェームズの後ろを、と二人でついていく。それにしてもよく遊んだなあ。辺りを見渡せば、真っ白だった雪の絨毯はたくさんの足跡と、とシリウスの倒れた跡が残っていて、その範囲だけぐちゃぐちゃになっていた。そしてふと、巨大な雪の塊が目に入る。それは何かの形を模している様だけど、それが一体何なのか、僕には分からなかった。その雪の塊を見つめていると、は気づいて教えてくれた。「あれは雪うさぎだよ。三人で作ったの」雪うさぎ、かあ。「どちらかというと―――」蛙に見えるんだけど。そう言いかけて、やめた。どうやら僕は、リリーの思惑にまんまと乗せられてしまったようだ。あんな図鑑、見るんじゃなかった。当分は蛙チョコも食べたくない。突然苦い顔をし始めた僕の顔をは不思議そうに見たけど、僕はそれを誤魔化すように彼女の空いていた左手をとって僕のコートの右ポケットへ連れていった。

「部屋に戻ったら、ホットココアでも飲もうか」





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