コンコン。
 夜更けの2時過ぎ。誰かが自分の部屋のドアを叩く音がする。先ほど任務を終え帰ってきたばかりのスクアーロは、丁度今ベッドで眠ろうとしていたところだった。スクアーロは面倒くさそうに起き上がり、苛立ちを感じながらもゆっくりとドアを開けた。
「・・・・・」
「・・・・・」
 ドアの向こう側には、見慣れた女がいた。だが、彼女はいつになく暗い表情をしていて俯き加減だった。
「…なんだよ、どうかしたのかぁ」
「・・・・・」
 そう尋ねるが、返答はない。しかし、彼女はそういう人間だった。何か嫌なことがあったとしても他人に愚痴を零そうとしたりはせず、自分の中に溜め込んでしまう癖がある人間だ。
 けれど、こんな時間に来るだなんて、よほどの事があったのは確かだろう。
「とりあえず、入れ」
 はちらりとスクアーロの顔を見、それから無言で部屋に足を踏み入れた。


 その後、はどうするでもなくその場に立ったままだった。
 スクアーロははぁ、と溜息を吐き、ベッドに腰掛けに手まねきをした。部屋の電気は点けていない。明かりがあるとすれば、壁際にある四角い水槽の淡いブルーの光だけ。
 静かにスクアーロに従う彼女は、まるで衰弱した猫の様。それをゆっくりと、優しく抱きしめる。
 ふわり、とシャンプーの柔らかい香りがした。
「良い匂いだ」
 柔らかい髪に顔をうずめる。すると、暗さではっきりとは見えないが、彼女の肩が小さく震えたような気がした。
 今にどうかしたのか、何かあったのかと訊くことは、彼女にとってきっと薬にはならないだろう。自分に唯一出来る事といえば、優しく頭を撫でてやることくらいだった。


「…ありがとう、スクアーロ」


 まるで、時間が止まっているかの様な、そんなひと時だ。そこには、明日も明後日も大した意味なんて持ってはいなかった。
 とてもか弱いその声に、言葉で返答する代わりに彼女の髪を掻き上げ、額に軽くキスをした。



     そして、ゆっくりと眠りにつく




   (イメージはS/MA/Pの「バタフライ」)